プロジェクトの概要と現在の仕事内容
おいしさの秘密は何?
世界の食文化に触れ、
ヒントを探る。
世界の食文化に触れ、
ヒントを探る。
イーストやパンフィリングをメーカーの立場からではなく、パンを食す消費者視点で考え、ニーズをとらえたモノづくりを目指すことを意味する「パンの窓を通して考える」。この言葉を食品事業活動の原点として掲げてきたオリエンタル酵母工業株式会社。2000年にスタートした「世界のパンの窓から」と名付けられたプロジェクトは、世界各地の食に関する情報を収集し、その嗜好や技術をもとに、パン市場の新たな文化を日本に広めようという海外視察プロジェクトだ。学生時代に学んだ食品の知識を活かし、入社以来、製菓原料の開発に携わってきた橋本は、2012年にこのプロジェクトのメンバーに選ばれ、イタリアを訪ねた。素材や製菓・製パン原料は、最終製品であるパンや菓子のおいしさに直結する。その開発の奥深さに魅力を感じて入社した彼女が、プロジェクト参加で見つけた新たな目標とは何か。当時を振り返る。
プロジェクトの背景と当時の役割
- プロジェクトが始まった背景と参加者について教えてください。
- このプロジェクトは当初、一年に一回アメリカのトレンドやパン食文化を定期的に調査し、市場に情報提供するためのプロジェクトとして始まりました。その後、世界各地を対象とするようになり、フランス、スペイン、ドイツ、イタリア、ギリシャ、北欧などパン食の盛んなヨーロッパをはじめ、カレーとナンをテーマにインドを訪ねた年もありました。参加するのは、オリエンタル酵母の中でパンやフィリングの開発に携わっている研究開発の社員を中心に工場や営業部からも人選し、全部で4~5名の選抜メンバーです。
- イタリア視察のメンバーに選ばれたときはどんな気持ちでしたか。
- 最初は驚きました。なぜ私なのだろう、と。話を聞いてみると、イタリアで「ドルチェ」と呼ばれるティラミスやパンナコッタといった洋菓子を開発者の視点で見てきてほしいということで、日が経つにつれ行くのが楽しみになってきました。しかし、同時にプレッシャーも大きかったですね。実は「世界のパンの窓から」でイタリアを扱うのは二回目だったのです。前回の視察とどう違いを出すのか、イタリアで何を見てくるべきかとても悩みました。日本でも人気のイタリアンだからこそ、なぜこの素材が使われるのか、なぜこの食感が人気なのか、現地ではどう食べられているのかなど、もっと深く学ばなくてはという思いがありました。
- 視察の準備はどのように進めたのでしょうか。
- 私たちのチームでは2ヶ月前から準備を始め、週に一回は仕事の合間に集まって会議を重ねました。毎日のように書籍やインターネットで下調べをし、イタリア食品の展示会にも参加しました。次第にわかってきたのは、近年はチーズもパンもトリュフも地方にフォーカスして取り上げられる傾向があるということです。そこで今回の視察では、同じイタリアンでも「シチリア料理のレストラン」や「トスカーナ産のチーズ」など地方色の強いものに注目することをテーマの一つとしました。
イタリアで見たもの、経験したこと
- イタリアでの約10日間はどのように過ごしたのでしょうか。
- 少しでも多くの情報を持ち帰りたいという気持ちで、事前に調べていた流行食から現地で目についた気になるものまで、朝から晩までたくさんのものを食べて歩きました。食材の大胆な使い方に驚かれることも多かったですね。日本でアレンジされたイタリアンとは異なる魅力を発見するたび、書籍やインターネットでは掴み切れない生の情報に触れているという実感がわきました。
- 視察中はどんなことにこだわりましたか。
- 「なぜ?」という視点を大切にしました。例えば料理やドルチェの多様な食感を理解するには調理法を知る必要があります。現地の料理教室ではマンマ(イタリア語でお母さん)からフルコースの調理を教わり、野菜の甘みや旨みを引き出す方法や素材の活かし方について学びました。また、町の惣菜店などでも気さくな店員さんに通訳を通してつくり方を尋ね、その味がどのように生み出されているのかを探りました。
- イタリアではどんな食文化が印象的でしたか。
- 特に印象的だったのは南のシチリア島です。地理的にもアラブ諸国に近く、多くの国に支配されてきた歴史的背景があることから、写真などで見るよりもはるかにインパクトの強い文化がありました。クスクスを使ったサラダや、独創的なデザインと鮮やかな色使いのドルチェなどは、他の地方では見られなかった食文化です。ミラノ、フィレンツェ、ローマ、ナポリなど北から南まで7都市を回り、地域による食文化の違いを細かく調査してくることができました。
改めて感じる、オリエンタル酵母の魅力
- プロジェクトを通じて改めて感じたこの仕事の魅力は何ですか?
- 食に関して貪欲になれることです。食べることが好きで、食に関わる仕事がしたいと思っていた私にとっては恵まれた環境です。このプロジェクトに限らず、日頃から自由な情報交換ができる風通しの良さを感じています。新しいパン製品が発売されたと聞けば買ってきて「フィリングがおいしい」「生地がいいね」などと意見を交わし合うのも仕事の一部。新しいものの開発には、情報収集が欠かせません。
- だからこそ、海外視察の使命感やプレッシャーも大きかったわけですね。
- そうなんです。帰国後には当社営業職と一緒に顧客ユーザーに向けて、イタリア視察で得た情報をプレゼンテーションしました。「調理法」「食感」「素材」の三つの切り口で資料をまとめ、イタリアの食文化を表現するオリジナルのパンを製作して発表したのです。当社製品の新たな使い方を提案する狙いもあったので、製品や素材の使い分けや配合にもこだわりました。ユーザーへプレゼンテーションを実施した際は、「この食感がいいね」「フィリングとパンの生地がよく合う」と期待どおりの反響がありました。資料も充実していて、イタリアフェアの際にはパンソフトだけではなく、資料も参考にしたいとの評価を得るなど、影響力の高さを感じました。社内でも、パンソフトの成型や味、食感へのこだわりが伝わり、資料もクオリティが高く、自信を持って積極的にユーザーに紹介したいとの声も上がり、確かな手応えを感じました。
プロジェクトの未来、今後の目標
- プロジェクトを終えて、どんな課題や目標が見つかりましたか?
- お客様企業の製品開発のヒントやパン市場の活性化に繋がるような情報を提供することが、このプロジェクトの大きな目標です。プレゼンテーションではビスコッティのパリパリ食感、ナポリピッツァのモチモチ食感、さっぱり感やコクを生む鍵となる乳化の調理法、ドルチェに欠かせないフレッシュチーズの味わいなど、私たちが肌で感じてきたことを伝えることの難しさを感じました。こうした情報をどのように他者と共有して活かしていくかということが、大切な課題です。
- 最後に、橋本さん自身の今後の目標について教えてください。
- 新しい製菓原料の開発だけでなく、例えば「スポンジケーキにはこの配合がお薦めですよ」といった当社製品の使い方の提案にもっと力を入れたいと思っています。世の中には本当にたくさんの食品素材がありますが、実際に食べたり情報を集めたりすることで知識を増やせば、お客様が求めていることに対しもっと的確に応えられると思うのです。今後、これまでに得た知識を活かして、多くの人々に当社の製品を紹介していけたらと考えています。